3/20/2025

動く



今日もあの海辺では

罪のない人々が

空からの悪意に逃げ惑う

海を渡り

着いた陸では

記憶を忘却しようとした人々が

まやかしの未来に

歓喜するふりをしている

脳の片隅に

埃に塗れて動かぬ子ども

押しのけても

押しのけても

その記憶も動かない

作り笑いに引き攣る口元

テーブルの上の肉だけが

ぐにゃぐにゃと動き出す

あの海辺を目指して

あの泣き叫ぶ

子どもたちを目指して






















03202025


10/26/2024

あなたにはあなたの


あなたは朝起きて鏡を見る

そして少し二重になった顎を見て

こう思うのだ

もう少し痩せなければと

あなたは電車や自動車に乗る

そしてビルが建ち並ぶ景色を見て

こう思うのだ

あのビルも古くなったと

あなたは機嫌が悪い上司に接する

そして自分の縒れた服を見て

こう思うのだ

こんな職場は早く辞めてやると

あなたは仕事帰りに食事をする

そして少ないビールの泡を見て

こう思うのだ

下戸にビールを注がせるなと


あなたはスマホを取り出して

SNSを開く

そう、あなたにはあなたの幸せがある

そう、私には私の幸せがある

小さい液晶画面から届く動画

負傷した妹を担ぐ幼い姉は

靴を履いていない

頭が半分吹き飛ばされた

子どもの死体

頭を全部失ってしまい

誰かわからない子どもの死体


あなたにはあなたの幸せがあるが

私には私の幸せがあるが

確かにあの子どもたちにも

子どもたちの幸せが

あったのだ









































10252024


1/14/2024

紙皿ではない



きみが
使い捨てだと思っている紙皿は
あいにく
何度テーブルから落としても
割れたり
壊れたりすることはない
そして
それは使い捨ての紙皿なんかではない
きみは
随分と20世紀を生きすぎてしまい
時の流れを見失い
干からびては
固くなり
動けなくなってしまったようだ
いつしかきみは
古い古い石碑のように風化して
刻まれた文字や印さえ
誰も読むことができなくなる
もう読む必要もないのだろう
きみが
使い捨ての紙皿だと思っていたものは
これからも成長を続け
子孫を増やし
きみがどんなに醜い奴かを
口々にして
永久に語り続けることだろう
あいにくだが
我々は
何度テーブルから落とされても
割れたり
壊れたりはしないのでね





























01/14/2024








9/21/2023

巧言令色



さあ

この美しい手をご覧になって

この手の色は白く

この手の形は隙がなく

この手には温もりがない

完璧な手

握ったことも

放したことも

運んだことも

投げたことも

持ち上げたこともない

完璧な手

さあ

この美しい手をご覧になって

子どもに料理を作ったことも

シャツにボタンをつけたことも

雑巾を搾ったことも

土に種を植えたこともない

完璧な手

さあ

この美しい手をご覧になって

作り物のような

人形のような

偽物のような

上辺を取り繕うだけの

完璧な手を





















09212023

8/27/2023

炎が天で

 

自分の部屋は自分の歴史

本の表紙に付いた滲も

日に焼けたカーテンも

柱の擦り減った角も

それは全て自分の歴史

思い出はいつか古ぼけて

いずれ美しく輝いてほしいと

願っても

残るのは砂粒ひとつ

その砂粒を共有しようと

人はまた今日も

誰かと連れ立っては旅に出る


風は見ていた

でも風の言葉は

我々には通じない

海は徐々に腐り

山は悲鳴を上げて疲れ果て

炎が天で

上機嫌で

歌ってる























08272023