12/30/2015

来年



来年は
鬼が笑う
閻魔大王が笑う
地獄への入口が
あんぐりと口を開けて笑う
首相が笑う
大統領が笑う
地獄への入口が
あんぐりと口を開けて笑う
















12/19/2015



私にとって一遍の詩は
一枚の絵画であり
一皿の料理であり
一冊の本の表紙であり

本の中身は
ノンフィクション
フィクション
私小説
随筆
ジャンルは読者が決めてくれる
私はただ
暗がりの中にしゃがみ込んで
黙々と
コツコツと
表紙の上を撫でている
保育器の中の乳飲み子が
息をしているかを
確かめるかのように




























12/05/2015

写真



広場には人影がまばらで
それでいて人影が途切れることが無く
白っちゃけた全体像には
無言で歩く人と人
そこが広場だと確認できるのは
広場を一周する屋根付きの回廊で囲まれているからで
石灰岩のような壁には小窓が灯りを取り入れて
男は黒いスーツに丸みを帯びた帽子を被り
女は細身のドレス
小さな傘を持って歩く
18世紀末には暑い昼
傘の影が
女の肩に吸い込まれ
男は
この世に女などいないといった素振りを見せては出口へ向かう
土埃が明日を舞い上がらせているのは
写真が飾られている部屋の温度が冷たいせいである
































9/27/2015

善良な市民



彼らは途方も無く
飢えていた
飢えが飢えを手繰り寄せ
渇きは渇きを目覚めさせる

ありとあらゆる料理を
あらん限りの食材を
あとは子どもだ
子どもを食べようと
彼らは
お菓子を振る舞った

ひとかけらの砂糖菓子に
あちらこちらで
子どもたちが群がる
彼らが後手に隠し持つものは
砂糖菓子よりも軽い
一枚の契約書
二度と帰らぬ時間と引き換えに

今日も
仕事の合間に居眠し
猫が転んだと笑い
流れるニュースに涙する彼らは
所謂
善良な市民


























09272015 4:39













8/28/2015

個体



土壁にうっすらと
縦に入ったひび割れを
銀のかんざしの先で
こじ開けた
続けて
両手の
人差し指と
中指と
薬指の
爪の先で
こじ開けた

柱ごと
動く壁
天井は
横に伸びる

光が差し込んでもよいほどの
外は秋
なのに
壁に空いた隙は
吸い込まれる暗黒
奥で蠢くのは
無数の偽物


傍らの本の内部で
家鴨が劈く声で鳴いた
家鴨が劈く声で鳴いた
ご飯が炊ける匂いがして
ふいに
8歳に戻っていた
母が私を探してる
私は母を探さない




































8/23/2015

「日本」



「日本」という文字には
二通りの響きがあって

「にほん」の響きには
登山用の杖を差し出したくなって
「ニッポン」の響きには
まあここらで一息ついてくださいなと
お茶を入れたくなる
どちらも「日本」には違いないし
どちらも「日本」ではないのかもしれない

猿真似に熱心な政治家は
他人事のように
明日の話をしたがるが
情けないことに
今夜の夕餉の献立でさえ
まだ
自身で決めかねている
割れた角皿と
折れた箸にしがみつきながら

























8/14/2015

喪失



彼は起点を失った
落雷に
引き裂かれることなく
津波に
押し流されることなく
起点はそこに
厳粛のうちに
不動だった

蝉が
盛んに慟哭を
風が
静かに悲哀を
木々が
たゆまぬ継承を
それでも
彼は
起点を失った
同時に
到達点をも失った

広い家に
彼の帰りを
待つ者はいない




























7/16/2015

キミの粥



かまうもんか
それはキミの粥
食べてもいいんだよ
啜ってもいいんだよ
さあ
遠慮しないで

日本の米と
日本の水で
作った粥
対比はね
米が1
水が100
お椀の底に
沈んでいる
ご飯粒が見えるかな?
日本の国が
キミのために作った粥
キミの愛する国が
キミのために作った粥
感極まって
嬉し泣きに
崩れたっていいんだよ
キミの愛する国が
キミのために
作ったんだから
底に溜まったご飯粒を
数えたっていいんだよ
生活に追われて
忙しいキミのために
数えやすいように
数を減らしてあるからね
キミの将来の子どもの分も
仲良くひとつのお椀の中に

キミが愛する国が作った
キミの粥
残しちゃダメだ
最後まで啜るところを
見届けてあげようね






















7/15/2015

7月15日



昨日の強風が
嘘みたいに
パタリと止んで
青空の色が
濃さを増して
鳥の挨拶
緑の匂いが
部屋の中まで
6時の朝は
長閑に夏を広げている

7月15日という日が
どっかりと
夏の敷物の上に座っている
これから
醜い不幸と
待ち合わせ

冷蔵庫の中には
冷えたプラムが4つ



















6/26/2015

小鳥



私の小鳥は
翼を縮めて
たどたどしく
曇り空へ飛んで行った
その雲を越えると
コバルトの空があると信じて
遠浅の三つの海の波音を突き抜けて
五つの雪山を仰いだ
嘴に白ツメクサの花を咥えていたら
口の中に茎だけが残った
私の小鳥は小鳥になって
枝の上で
今は
卵を温めている
私は小鳥を失った
私は長い旅に出た




















6/23/2015

生まれた男



生まれた男は
薄緑色の
病衣に包まって
臍の緒は
合成樹脂製
産声は
心電図の科学音
息を吹き込まれ

唯一の神は
男を作った
肋骨を抜き取る代わりに
胸の骨を
切断した

生まれた男の寿命は
どう見積もっても
せいぜい
二十歳まで

男は
やっとひとつの
言葉を憶えた

























6/07/2015

一方では遊戯



「ねぇ、風を滑らかに爪弾いてごらんよ」
「格納庫の滴りがどうしたって?」
「月の裏側によじ登り」
「盃は笑い転げて」
「そうだね、月は空の真上に沈んだ」
「いや、水の中の炎は袂の湿度が作り出したのさ」
「甘い樹木はサバンナの涙で枯れてしまうんだ」
「地平線に南天の実をまぶして」
「祈りは捻れて凍える」
「やがて」
「やがて」
「知らない」
「一方では遊戯」
























6/03/2015






右側うそく写真機しゃしんき
)
           作詞(さくし) 井上麻樹子(いのうえまきこ)
           ()



(だれ)()てゐない
(だれ)()いてない
(だれ)にも(はな)したりはしない
画像(がぞう)写真店(フォトショップ)再生(リメイク)
永遠(とは)足跡(あしあと)(のこ)しませう
なんて理想的(りさうてき)魅惑(みわく)時代(じだい)
記憶(きおく)改竄(かいざん)(とき)修正(しうせい)()ぶのです
蜘蛛(くも)()()らすやうに
過去(かこ)から(とほ)ざかつて()くのです


(だれ)()つけない
(だれ)(さが)さない
(だれ)にも(たから)(わた)さない
秘密(ひみつ)はパンドラの(はこ)(なか)
永遠(とは)封印命令(ふういんめいれい)(くだ)しませう
なんて理想的(りさうてき)豪奢(ごうしや)時代(じだい)
記憶(きおく)改竄(かいざん)(とき)修正(しうせい)()ぶのです
蜘蛛(くも)()()らすやうに
過去(かこ)から(とほ)ざかつて()くのです


(だれ)()にしない
(だれ)()きちやゐない
だから
だから(←この箇所でわざとらしく半音階上に移調)
(だれ)にも(かな)しい(おも)ひをさせない
積極的平和(せつきよくてきへいわ)(うた)へば平和(へいわ)(めぐ)
永遠(とは)翼賛(よくさん)(いの)りませう
なんて理想的(りさうてき)安寧(あんねい)時代(じだい)
記憶(きおく)改竄(かいざん)(とき)修正(しうせい)()ぶのです
蜘蛛(くも)()()らすやうに
過去(かこ)から(とほ)ざかつて()くのです

記憶(きおく)捏造(ねつぞう)(とき)修正(しうせい)()ぶのです
蜘蛛(くも)()()らすやうに
現在(いま)から(とほ)ざかつて()くのです

























眠る夢
                       作詞 井上麻樹子
                          


潜れ潜れと拍手を浴びて
火の輪を潜ろうとするのは
飼い慣らされたライオンさ
息を飲む客は動かない
団長の鞭の音は空気をも切り裂く
尻尾の先が少し焦げている
今宵 長いお髭を捻っては
ライオンはカンバスに向かう夢をみる


回れ回れボールを回せ
よろけて大玉に乗ろうとするのは
群れから逸れた象さ
死なない程度の食事を与えては
団長の鞭の音が床を震わせる
爪が真っ二つに割れている
今宵 三日月に重い鎖を引っ掛けて
像はサンバを踊る夢をみる


笑え笑えと身振りや手振り
躓き転ぼうとするのは
もの言えぬ道化さ
派手な衣装は体の一部
団長の怒鳴り声で白い顔は青ざめ
宿根草に涙を落とす
今宵 解れたテントの隙間から
道化は湖畔で眠る夢をみる

今宵 解れたテントの隙間から

道化は湖畔で眠る夢をみる







読者のみなさんへ

お読みいただき、ありがとうございます。
今年の2月に某講座に参加した際、歌(J-POP)の作詞の課題が出題されました。詩は時々推敲していますが、作詞は初心者。このような詞にどのようなメロディーが乗せられるのかは皆無。ノパソに保存していましたが、公開しました。









我慢


石は押されて押されていても
我慢するにもほどがある
小さな溝を見つけては
梃子でもそこを動かない
もしも気が変わったら
声をかけて
でもその時には
砂粒よりも小さくなって
シジミ貝の中に入って
あなたの最後の食事を
台無しにすることになるだろう

もしも気が変わったら
声をかけて
みんなが小さくなる前に