1/14/2024

紙皿ではない



きみが
使い捨てだと思っている紙皿は
あいにく
何度テーブルから落としても
割れたり
壊れたりすることはない
そして
それは使い捨ての紙皿なんかではない
きみは
随分と20世紀を生きすぎてしまい
時の流れを見失い
干からびては
固くなり
動けなくなってしまったようだ
いつしかきみは
古い古い石碑のように風化して
刻まれた文字や印さえ
誰も読むことができなくなる
もう読む必要もないのだろう
きみが
使い捨ての紙皿だと思っていたものは
これからも成長を続け
子孫を増やし
きみがどんなに醜い奴かを
口々にして
永久に語り続けることだろう
あいにくだが
我々は
何度テーブルから落とされても
割れたり
壊れたりはしないのでね





























01/14/2024








9/21/2023

巧言令色



さあ

この美しい手をご覧になって

この手の色は白く

この手の形は隙がなく

この手には温もりがない

完璧な手

握ったことも

放したことも

運んだことも

投げたことも

持ち上げたこともない

完璧な手

さあ

この美しい手をご覧になって

子どもに料理を作ったことも

シャツにボタンをつけたことも

雑巾を搾ったことも

土に種を植えたこともない

完璧な手

さあ

この美しい手をご覧になって

作り物のような

人形のような

偽物のような

上辺を取り繕うだけの

完璧な手を





















09212023

8/27/2023

炎が天で

 

自分の部屋は自分の歴史

本の表紙に付いた滲も

日に焼けたカーテンも

柱の擦り減った角も

それは全て自分の歴史

思い出はいつか古ぼけて

いずれ美しく輝いてほしいと

願っても

残るのは砂粒ひとつ

その砂粒を共有しようと

人はまた今日も

誰かと連れ立っては旅に出る


風は見ていた

でも風の言葉は

我々には通じない

海は徐々に腐り

山は悲鳴を上げて疲れ果て

炎が天で

上機嫌で

歌ってる























08272023

7/27/2023

彷彿



藍色は走る

瞬きは星の煌めきと

同じ速さだから

おそらくは闇は過ぎ去り

光はレースでも編んでは

時間を潰している

水は笑いすぎてしまい

口が閉じなくなってしまった

言葉が無限に溢れ出し

もう行き先を見失った

風は回り続け

白紙は彼方で佇み

途方に暮れている

卵が割れた

卵が割れた

生まれてくるのはだあれ


























07/26/2023

5/23/2023

誕生日


4年前の今日

君は生まれた

それから少しして

君はうちに来た

毛むくじゃらの君は

毛むくじゃらの愛らしさを発揮して

毛むくじゃらのまま大きくなった

君がうちに来た時

君を一生を護ると決めたが

いつしか君は

私を護ってくれている


今日は雨

君は毛繕いに忙しく

そのあとずーっと寝っぱなし

誕生日のご馳走の

皿の上の

鰹は干からびてきた

それでいいんだ

好きなように生きればいいんだ



























05/23/2023

5/21/2022

始まりの合図




空っぽの部屋を小窓から覗く

中には何もないことくらい

曇り空だったあの日から

誰もがわかっている

中は真っ白だったのに

少しずつ壁に傷が付いて

もう何色なのかもわからない

古臭いネオン管が砕け

靴底の下でシャラシャラ笑う

小窓の白い枠の中に

今日も忍び込む黒い煙

男がひとりでそれを見ている

子どもたちは蝶を追いかけて

街からいなくなった

これは始まり

空虚は始まりの合図


その縁に立つ者

その縁に佇む者

その縁を眺める者

その中に歩みを進める者

その中に転げる者

その中に飛び込む者

その方法を決めることは

いついかなる時も自由































20220521