6/26/2015

小鳥



私の小鳥は
翼を縮めて
たどたどしく
曇り空へ飛んで行った
その雲を越えると
コバルトの空があると信じて
遠浅の三つの海の波音を突き抜けて
五つの雪山を仰いだ
嘴に白ツメクサの花を咥えていたら
口の中に茎だけが残った
私の小鳥は小鳥になって
枝の上で
今は
卵を温めている
私は小鳥を失った
私は長い旅に出た




















6/23/2015

生まれた男



生まれた男は
薄緑色の
病衣に包まって
臍の緒は
合成樹脂製
産声は
心電図の科学音
息を吹き込まれ

唯一の神は
男を作った
肋骨を抜き取る代わりに
胸の骨を
切断した

生まれた男の寿命は
どう見積もっても
せいぜい
二十歳まで

男は
やっとひとつの
言葉を憶えた

























6/07/2015

一方では遊戯



「ねぇ、風を滑らかに爪弾いてごらんよ」
「格納庫の滴りがどうしたって?」
「月の裏側によじ登り」
「盃は笑い転げて」
「そうだね、月は空の真上に沈んだ」
「いや、水の中の炎は袂の湿度が作り出したのさ」
「甘い樹木はサバンナの涙で枯れてしまうんだ」
「地平線に南天の実をまぶして」
「祈りは捻れて凍える」
「やがて」
「やがて」
「知らない」
「一方では遊戯」
























6/03/2015






右側うそく写真機しゃしんき
)
           作詞(さくし) 井上麻樹子(いのうえまきこ)
           ()



(だれ)()てゐない
(だれ)()いてない
(だれ)にも(はな)したりはしない
画像(がぞう)写真店(フォトショップ)再生(リメイク)
永遠(とは)足跡(あしあと)(のこ)しませう
なんて理想的(りさうてき)魅惑(みわく)時代(じだい)
記憶(きおく)改竄(かいざん)(とき)修正(しうせい)()ぶのです
蜘蛛(くも)()()らすやうに
過去(かこ)から(とほ)ざかつて()くのです


(だれ)()つけない
(だれ)(さが)さない
(だれ)にも(たから)(わた)さない
秘密(ひみつ)はパンドラの(はこ)(なか)
永遠(とは)封印命令(ふういんめいれい)(くだ)しませう
なんて理想的(りさうてき)豪奢(ごうしや)時代(じだい)
記憶(きおく)改竄(かいざん)(とき)修正(しうせい)()ぶのです
蜘蛛(くも)()()らすやうに
過去(かこ)から(とほ)ざかつて()くのです


(だれ)()にしない
(だれ)()きちやゐない
だから
だから(←この箇所でわざとらしく半音階上に移調)
(だれ)にも(かな)しい(おも)ひをさせない
積極的平和(せつきよくてきへいわ)(うた)へば平和(へいわ)(めぐ)
永遠(とは)翼賛(よくさん)(いの)りませう
なんて理想的(りさうてき)安寧(あんねい)時代(じだい)
記憶(きおく)改竄(かいざん)(とき)修正(しうせい)()ぶのです
蜘蛛(くも)()()らすやうに
過去(かこ)から(とほ)ざかつて()くのです

記憶(きおく)捏造(ねつぞう)(とき)修正(しうせい)()ぶのです
蜘蛛(くも)()()らすやうに
現在(いま)から(とほ)ざかつて()くのです

























眠る夢
                       作詞 井上麻樹子
                          


潜れ潜れと拍手を浴びて
火の輪を潜ろうとするのは
飼い慣らされたライオンさ
息を飲む客は動かない
団長の鞭の音は空気をも切り裂く
尻尾の先が少し焦げている
今宵 長いお髭を捻っては
ライオンはカンバスに向かう夢をみる


回れ回れボールを回せ
よろけて大玉に乗ろうとするのは
群れから逸れた象さ
死なない程度の食事を与えては
団長の鞭の音が床を震わせる
爪が真っ二つに割れている
今宵 三日月に重い鎖を引っ掛けて
像はサンバを踊る夢をみる


笑え笑えと身振りや手振り
躓き転ぼうとするのは
もの言えぬ道化さ
派手な衣装は体の一部
団長の怒鳴り声で白い顔は青ざめ
宿根草に涙を落とす
今宵 解れたテントの隙間から
道化は湖畔で眠る夢をみる

今宵 解れたテントの隙間から

道化は湖畔で眠る夢をみる







読者のみなさんへ

お読みいただき、ありがとうございます。
今年の2月に某講座に参加した際、歌(J-POP)の作詞の課題が出題されました。詩は時々推敲していますが、作詞は初心者。このような詞にどのようなメロディーが乗せられるのかは皆無。ノパソに保存していましたが、公開しました。









我慢


石は押されて押されていても
我慢するにもほどがある
小さな溝を見つけては
梃子でもそこを動かない
もしも気が変わったら
声をかけて
でもその時には
砂粒よりも小さくなって
シジミ貝の中に入って
あなたの最後の食事を
台無しにすることになるだろう

もしも気が変わったら
声をかけて
みんなが小さくなる前に