12/01/2017



今朝、師走の曇天の下で白と黒のブチ猫が私の前を横切って行った。猫は大人でもなければ子どもでもない大きさで、ひょろっとしていた。野良特有の小走りする姿は近所では見たことが無い柄だ。毛並みが艶々と滑らかに流れていたので、咄嗟にこの猫は宇宙から来たのか過去か来たのか、もしくは異次元辺りから迷い込んだ猫だと思った。猫は走り去ると他所様の庭奥深く入り込んでやがてその姿は見えなくなった。ほんの2秒程度の出来事で、野良猫に出くわすなど珍しくもなんとも無い出来事ではあったが、その猫とは会うべくして会ったように、数枚の写真に残るかの如く脳裏に焼き付いてしまった。猫が急いで探していたのは未来への入口、もしくは現世からの出口なのだろう。その猫の後をついて行きたかったが、冷たい風が自転車で走る私の目元を切るので、滲む涙を拭わなければならなかった。人差し指の先が鈍く光った。































12012017



11/12/2017

ひとつ


雨音に混じってシャーペンの芯が折れる音が響く
小さく咳する青白い子
ホワイトボードは今日もギシギシと軋み
賛美歌を歌うマーカー
飛び跳ねる消しゴムはみんなの厄介者
窓から入り込む唐突な踏切の鐘の音
遮断機の内側にスマホがポツンと落ちている
見て見ぬ振りする大人たち
耳にはイヤフォンが捻じ込まれ
傘の陰に隠れてる
ジャンケンに勝って人間に生まれたのだろう
星ひとつ消滅するまで
鳴り止まぬタンゴのリズム



































11112017















11/03/2017

美しい国


明日は祝日
昔で言う旗日だね
誰かが玄関先や門の脇に
日の丸なんかを立てたりね

休日だから
自由で民主な時間だね
天気予報は晴れ予報
お出かけなんかしたりして

これでも少しはお洒落なんだ
カラーコーデは青と白
斜に構えて
すましたりして

地下鉄にでも乗ろうかな
閑散とした半蔵門駅で降り
外務省に中指立てたり
お散歩ってだあーい好き

観光地までは徒歩で10分ほど
三角形が見えてきたね
古めかしい色合いの
あの建物は国会議事堂

なんでも「取って取って」と
背の低いガキみたいに
言えさえすれば
総理になれるらしいのね

嗚呼、美しい国
ニッポン
明日は折しも文化の日
マルセル・デュシャンがお気に入り










11032017








10/18/2017

丘の上の




「奏でる」は「言葉」
「刻む」は「歴史」

いつまでも指を咥えて
丘の上に居たまえ































10182017

10/12/2017

加害者と被害者



あっちの棘を抜こうとすると
こっちの棘が喋り出す
こっちの棘を抜こうとすると
そっちの棘が喋り出す
皆、口々に言うことは同じ
「私は加害者ではない」
どこから来たのかと尋ねたのだが
あなたは加害者であるのかと
尋ねたことは一度もないのだ


































10112017

9/13/2017

盲目の土竜



夏は終わってしまったんだよ

(今朝、蝉が鳴いていた)

もう夏は終わったんだ

(蟻は忙しく角張って歩いていた)

夏じゃないんだ

(小灰蝶の羽が、)

これは秋の色

(オレンジと紫と象牙色)

青空に続く果ては?

(生きているうちにはわからない)

君は誰なの?

(盲目の土竜)

























09132017


7/03/2017

反転



今日

私が訪ねる場所は

病院の待合室かも知れない

美術館の座り心地の良い

ふかふかの椅子かも知れないし

コンビニの商品棚に置かれた

チョコレートの前か

もしくは

50年のお家のノスタルジックな

扉の前かも知れない


散らばった文字を

拾い集めることに

少し疲れて

集めても集めても

会ったこともないのに

まだ集め続けて

今日も

扉の内側に立っている


































07092017



6/14/2017

梅雨の合間



飛行機の轟きが

きっかり45度の角度を付けて

微風と共に

窓から飛び込んできた

その音をかき消すように

雀が一斉に鳴き出した

トラックの走行音が

遠くに尾を引いた

被るように

古い自転車は

金属音を撒き散らし

近所の子どもは

引きつって泣き止まず


梅雨の合間

1840分の地上は

天に透明に青く映る

窓を開ることが許される時間は

残り僅か

明日は国防色の雨に

街は占領されるのだ
































06142017



4/28/2017



いつの頃からかは憶えてはいないが

水の中にいるような音がして

いつの頃からかは憶えてはいないが

小川の流れる音に耳をすまし

いつの頃からかは憶えてはいないが

小川が遊歩道なんていう名に変わり

背丈が大人と同じくらいになった頃

水仕事をするようになって

大人になると

水の音に気を留める暇もなく

働いて働いて働いて


店先に並ぶペットボトルの水の束

自由に飛び跳ねるには

グラスの中では狭かろうに































04272017



3/24/2017

無題



彼のお店では

日用品とは正反対のモノを売っています

それはあってもなくても

どちらでもいいモノで

それはそれは輝いているモノなのだそうですが

ヒトによっては

あればあるで訝しみ

なければないで血相を変えて

戸棚の中をひっくり返してしまいます

時々、数にして年に5回ほど

戸棚の中では高い青空が飛び跳ねては驚かせ

また、時として戸棚の中では

50年前の白黒写真を栞のように隠して

整列した活字の行間に挟んでいるのです


彼のお店のモノは

おカネだけでは買えません

モノの原料となる日用品を添えてください

例えば

誰をも悩ませる恋の話とか





































03232017











3/20/2017

相和(「教育ニ関スル勅語」より)



消えてしまえと念じているのでしょう

都合の悪いことを

でも

念じれば念じるほどに

あなたの影は半分薄くなり

あなたの身体の裏側に茂る

低木の輪郭線が

明日にでも透けて

鮮明に見えてしまいそう

だから

あなたは慌てて

衣服を纏おうとしたのですが

どうしたことか

着衣の方法を学んだことがなかった

愚鈍な妻は

あなたには見向きもせず

一日中床に座り込んでは

古ぼけた銀の匙で掬った

蜂蜜を舐めている



























03192017











3/15/2017



どの口が言った

あの口がゆうた

どの口が言った

あの知事の口

どの口が言った

あの官僚の口

どの口が言った

あの議員の口

どの口が言った

あの大臣の口

どの口が言った

あの首相の口

どの口が言った

あの大根と

その大根と

この大根の口

もう一回言ってみろ


幼稚園児よりも

台詞覚えが悪いとは

舞台の袖では氷点下


























03142017