8/28/2015

個体



土壁にうっすらと
縦に入ったひび割れを
銀のかんざしの先で
こじ開けた
続けて
両手の
人差し指と
中指と
薬指の
爪の先で
こじ開けた

柱ごと
動く壁
天井は
横に伸びる

光が差し込んでもよいほどの
外は秋
なのに
壁に空いた隙は
吸い込まれる暗黒
奥で蠢くのは
無数の偽物


傍らの本の内部で
家鴨が劈く声で鳴いた
家鴨が劈く声で鳴いた
ご飯が炊ける匂いがして
ふいに
8歳に戻っていた
母が私を探してる
私は母を探さない




































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