12/14/2012

或る福島六郎さん(仮名)の話【朝ぼらけ新聞12月14日付】



投票日も2日後と迫り、師走の街頭にて道行く有権者に衆院選について話を聞いた。
『選挙カーが入れ替わり立ち替わりこの付近を通るんだ。枯れかけたうぐいす嬢の声が、何やら喫緊の出来事を知らせるかの如くね。晴天の昼下がり、アレをやられるとねぇ。
今回の選挙はね、争点がバラバラなんだよ。だってね、原発、雇用、TPP、増税、憲法改正、核、社会保障、経済成長、赤字国債、米中韓など国際問題、沖縄米軍基地移設問題など細かく挙げるとキリがない。最近じゃ人権に触れることまで。あれにはかなりピキッと神経を逆なでられたよ。文体からしてお粗末な草案だと言われてるけど、確かにそうなんだけど、「本性見たり」の感が否めないなあ。権力者が権力を思うがままに振るおうとする時、何が邪魔って国民の「基本的人権」が、何よりも邪魔だからね。もし草案が通っちゃったら、政府にとって不利益な言動を行った人は、つかまっちゃうことになるかもね。ああ怖い。なんだか軍国主義の大日本帝国みたいだなあ。その頃僕はまだ生まれてないけどさ。で、「自由と権利には責任と義務が」とかなんとか書かれてあったけれど、「責任と義務」が一括りなんだって。法律はランチセットじゃないよーっだ、てね。そうそう、ランチセットのウサギの餌みたいな形だけのサラダ、どうにか改善してくれないかなあ。いつも、こんなまずいサラダは要らないって思うんだよね。賛同してくれる「脱サラダ」の仲間を集めて日比谷公園一帯にシュプレヒコールの渦を撒き散らそうかな?海外メディアなんかを一斉に招待するの。これは僕らにとって重要事項だし、日本中の国民が各地でデモに参加してさ、そのうちデモに明け暮れて、だあーれも働かなくなっちゃうの。え?大丈夫だよ。我が国では、国民は集会と表現の自由が法律で保障されてるんだ。それも平等にね。
それでね、僕は六人兄弟なんだけど、上から4番目までのお兄さんたちは事故で大怪我しちゃったの。僕は末っ子で、あの事故の時は現場から少し離れていたから、なんとか助かったんだ。今はクリスマスバケーション中なんだよ。あ、よく話し方なんかや中身が幼稚だって言われるけど、これでも33歳の独身さ。あはは。働いてる会社の会長や社長とかの真似してたら、こんなふうになっちゃったの。あはは。やっぱり上司に合わせないと、社内で生き残れないこともあるでしょ?でしょ?月給取りのつらいところだよね、うん。それにしても、いつまでバケーションなのか、本社から聞かされてないんだよ。だからいっそ転職したいと思ってるんだけど。バケーションと言っても自宅待機でね、暇で暇でしょうがないの。
それでね、今日僕が話したかったことはね、誰に、どこの政党に投票しようか決めかねてるってことなんだよ。僕は普段は無口で通ってるけど、内に秘めたる思いは、核爆弾なんて比べ物にならないぐらい熱いものがあるんだなあ。でもこれは、僕ら兄弟のDNAに組み込まれているから仕方がないの。だから僕を怒らせちゃ、後のことは知らないよ。だって誰にも直ぐには止められないんだからね。
それにしても、こんなに多額の赤字国債という国の負債を、どうやって返すんだろう。返すには稼がなくちゃいけないでしょ?じゃいったい何をして稼ぐの?輪転機をぐるぐる回しても、最後には紙屑になっちゃうのがオチだしねぇ。どこかの党じゃ、インフレのイメージに転換させるって言ってたけど、今年10月の金融緩和を境に金融緩和に見切りをつけないなんて、よほどの輪転機ストーカーなんだね。きっといい思いをして未練タラタラなんだよ。そうかなあ、輪転機のボディラインは、あんまりいいとは思わないけどなあ。でも無価値の札束は、子どもの銀行ごっこにいいかもね。これでオレオレ詐欺も居なくなっちゃって、ご高齢の方も安心だよ。で、実は僕はTPPにはなんとなく賛成なの。農家の人たちの暮らしはを守るためにも。矛盾してるように思われるかな?みんなも知ってるでしょうけれど、お米にしたって野菜やお肉にしたって、日本産が他国より品質管理が徹底してるのね。他国の遺伝子組み換えや農薬を濫用した農作物を好む人は少ないと思うよ。でね、日本の総人口が膨らむこれから数十年をどう凌ぐか、じゃないかな。その後は減少傾向だから、今みたいに沢山の食べ物は必要無くなるし。現在だって我が国の自給自足率では、到底国民が食べてはいけないでしょ?そして自由貿易は安く買うこともできるけど、安く売りつけることも出来るのね。烏骨鶏いや違う、あ、烏骨鶏の卵は美味しいよでも違う、えーとー滑稽関係これも違う、なんだっけ?まあそういった関係でお互いがお客さんになるんだよ。いくらなんでもお客さんに喧嘩を売る商人宿は、まずいないでしょ?だって商品は、売れて商品残ればただの在庫、だから仲良し。中国とアメリカが思想から何から違うのに、どうにかこうにか緊張感を解しながらやってこれたのは、今のところどちらにとってもお客さんだからなんだよ。物はね、国が安定してないと先行きが不安で買おうとする意欲が萎えちゃうんだ。これからいざこざが勃発しようって時に、優雅にショッピングを楽しもうとするほど、人はまだそこまで落ちちゃいないのね。だから仲良しじゃないとダメなの。それにね、営業時間や定休日や値段が決まってない不安定なお店から買いたいとは、お客さんは思わないの。あ、電力会社が安定供給だって騒ぎ立ててるけど騙されちゃいけないよ。あれは料金値上の口実なんだ。電気の在庫なんて元々ないんだから。ひと冬保つ沢庵漬けみたいに作り置きができないんだよ。元々作り置きがないのに安定した供給なんてこと言うの、変でしょ?まやかしだよね。あーなんだか今日の僕、喋り過ぎだなあ。これってお喋りの安定供給だなあ。
と、僕が柄にもなく経済の話をしたのはね、この国の雇用状況に少し腹を立てているからなの。僕の知人のお子さんがね、某コンビニでバイトして、「田楽マスター」のバッジ欲しいほどだって言うほどおでんを作りまくってたんだけど、時々勤務時間後、即ち勤退を登録した後に、オーナーから1時間近くもネチネチお説教されたり、毎回店長から「あんたバカなんじゃないの‼」って罵倒され続けてね、30代のオーナーが15歳に業務上の嫌がらせをしたりするんだって。いい大人が未成年者に挑発的なストレスをぶつけるんだって。これっていくら就職難といっても、本来健全なイメージのコンビニでさえ労働者の足元を見るような態度じゃない?だから僕は「人のこころはお金じゃ買えないぞっ」と受け売りの言葉なんかでカッコつけてみたんだけどね。その子はバイトを辞めちゃって、そのオーナーは、みんなが欲しいものはお金だけだ、と鷹を括っていたんだよ。辞めて良かったよね。そりゃお金はあればあるだけいいけどね、あなたも年末ジャンボ宝くじ買ってどうせ末尾一桁の当選だとわかっていてもニヤニヤしたりするでしょ?増税になったら今より生活が圧迫されることが予想されるし。国にしても支出ばかりが増える一方で、社会保障に予算が回らなくて、やむなく増税なんだって。出生率が減少傾向だから納税者も減少するのね。ま、一人が毎月一億円納税する社会に持ち上げれば問題はないかな。あははは、まさかそれは。買い物は消費税増税が導入前に、だよね。その後の景気指数のことなんてさ、あはは、個人には知ったことか、だよね。
そこで僕は思うんだよ。今回の選挙のキーワードは「お金」だって。立候補者はあれがよくないこれがよくない、こうしようああしようと言ってるけど、そのどれにも費用がかかるんだ。改憲だって、もし国防軍となったらその維持費は自衛隊以上の予算を組まなくては国のとしての体裁が整わなくなると思うよ。まあ、それが狙いなのかな?東北の復興もちっとも進んでないのに、まだまだ仮設住宅で暮らして、離散家族がいっぱい居るのに隊だの軍だの喧しい。なのに「第一義的には子どもは家庭で育てる」って、よく言うよ。
だけどね、僕は思うんだよ。戦後の首都東京の焼け野原や広島長崎から、こんなふうに経済成長を成し遂げた国も珍しいんじゃないかなって。ダメージが大きかったから、元に戻そう、いやもっと豊かになろうってそりゃあもう急いで走って来たんだけど、これからみんな何処に向かいたいのかなあ、そして何処に向かおうとしてるのかなあって。政治家のみなさんは、有権者と有権者の子どもや孫が何を求めているのかホントにわかっているのかな?僕は今、あれはいらないこれはいらないと思うけど、でも何が欲しいのかと訊かれたら、よくわからないな。うちには洗濯機もあるし、冷蔵庫には食べ物がぎっしり、箪笥から服がはみ出しそうだし、椅子やテーブルだってあるんだよ。すごいでしょ?公約なんか読んでると、好い事ばかり書いてあるけど、何て言うんだろ、お金で解決することのその先が明るくないの。どんよりしちゃってる。だから僕はね、冬の快晴のピッカピカの空の下で、来年のことを考えたりするの。これまで齷齪働いてきたのに、ここにきて誰に投票していいか決まらないなんていう社会になるとは、予測さえしなかったよ。もうね、のんびり暮らしたいんだ。立候補者やメディアがこれでもかって不安を煽るでしょ?政府の発言や世の中の情報に一喜一憂するのは疲れちゃったの。この国は過去に内乱もあれば戦争もあったけど、この国が船のように海底に沈んでしまったり、或る日突然、北海道から沖縄まで消滅してしまうことは殆ど考えられないよね?何をそんなに焦っているんだろう。まあ勿論、内乱や戦争なんて無駄なことには反対だけど。
あ、記者さん、この取材を記事にする時は、僕の名前を仮名にして下さいね。もー聞き上手なんだから、うっかり勤務先に触れることまで話しちゃった。え?社会部長さんなの?どーりで変顔、あ、いえ。
じゃ、お話聞いてくれてありがとう、これで失礼します。僕これから「モテモテ恋愛コース」のセラピーを受けに行くの。やっぱこんな僕じゃ、一生結婚できないよなあ。なんたって今じゃ日本一の嫌われ者だからね。』と、嬉しそうに話した。


※このお話はフィクションであり、実在する個人、団体等とは一切関係ありません。







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